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17世紀の航海術の進歩~新たな海図・四分儀・対数理論

【第7回】17世紀の航海術の進歩~新たな海図・四分儀・対数理論


17世紀には、航海のために正確な船の位置を測定する緯度・経度計算の精度が著しく向上し、16世紀にフランダース(現在のフランス北部の一部とベルギー南部の一部)の地図学者メルカトル(1512〜1594)が考案したメルカトル図法で描かれた海図の距離誤差を計算する算式や、対数表なども発達しました。17世紀は、まさに数学と天文学に新しい考え方が生まれた世紀だったといえるでしょう。そして、それを受けてヨーロッパの帆船の航海術も飛躍的に進歩していったのです。

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球体である地球と海図の関係

デアゴスティーニ編集部

1688年にヴェネチアで作られた地球儀。地球が丸いということは、コロンブスやマゼランの冒険によって実証されました。

16〜17世紀にかけては、数学、天文学、地理学などで新しい発表や発見があって、大きな変化が起こった時期でした。
大地と海は、紀元前からピタゴラス学派によって仮説として唱えられていた丸い世界説がありましたが、一般的には、円盤状の大地と海をドーム状の天空がおおっていると考えられていました。もちろん海図もそれをもとにしたものだったので地中海、黒海、カスピ海をはさんでヨーロッパ大陸とアジア大陸を描き、インダス川なども描かれていながら、それでも世界は円盤の中にとどまっていました。
コロンブスのアメリカ大陸到達以降、マゼランの世界一周などで地球が球体であるということが事実として認められると、16世紀末の科学者たちは、球体の表面にある陸地の起伏の大きさと高さをどう求めればよいのかという問題に頭を悩ませました。この問題を解決したのが、1581年、ガリレイがわずか17歳にして発見した振り子の等振性でした。この発見は、17世紀中期以降の近代的な時計の発達の基礎となったのに加え、地理学者の研究にとっても、また海図の発達にとっても重要な意味を持つものでした。
1644年にガリレイの弟子の一人、フランス人のマルチン・メルセールが振り子の周期は高さによって変化することを発見しました。つまり1メートルの長さの振り子の周期が海面の高さでちょうど1秒であるとすれば、山に登るとその周期が1秒よりも長くなることを発見したのです。つまり、振り子が地球の中心から離れるにしたがって、振り子にかかる重力が小さくなり、揺れ方が遅くなるというわけです。この当時は、まだニュートンによる万有引力の研究も深いレベルには達しておらず、重力についてはまだよく知られていなかったので、地球表面の重力と高度の計算に有効なものとして注目され、17世紀後半になると、新たな土地に探検におもむく船に同乗する地理学者が活用して、地図の製作に役立てました。
もうひとつ、1673年に海図の発展に役立つ大きな発見がなされました。それは、南米の探検に出たフランスの探検隊が、赤道付近では、海面であっても振り子の周期が遅くなっていることを確認したのです。この事実から、地球が赤道周り方向にふくらんでいる楕円体であることがわかり、海図を読む精度が飛躍的に向上したのです。

大洋航海で必要になった測定機器

デアゴスティーニ編集部

地中海の港での荷積みと物資補給の様子。右手前で運ばれているのは飲料水の樽です。

ところで、東はトルコ、西はスペインの東海岸にいたる地中海は、すでに隅々まで探査しつくされ、しかもどの航路も比較的短いものでしたから、方位などのデータが充分記載された精度の高いポルトラーノ式の海図があれば、当時の船乗りが航海するのに何の支障もありませんでした。船が正しい航路と針路を保持しているか、目的地までどのくらい離れているのか、また、その場所へ到着するにはおおよそどのくらいの日数がかかるかなども、海図上の目印と羅針盤、定規、ディバイダーで知ることができました。
この他にもすべての船に備えることが義務づけられていた砂時計や、イスラムで発明されたアストロラーベ(※古い航海用測定観測儀で、北極星などの基準となる天体の位置から現在地点を割り出すために使用された)、ノクタナール(※北極星を基準にして、大熊座との角度で船の現在地の時間を調べることができる器具)などの従来の機器を利用しながら、何ら問題なく航海を続けていたのです。しかし、狭い地中海では問題のない従来の航海術も、アメリカ新大陸などを目指す遠洋航海では機器の精度に問題があり、正確に航路をたどることが困難でした。そのため天文学や数学の研究が進められ、精度の高い測定器などが開発されることになったのです。

経験をもとにした航海理論

デアゴスティーニ編集部

チャールズ・サルトンスタール著『ザ・ナビゲーター』(1636)の表紙。この本は「『航海の方法』に記された理論の原理と実用上の紹介と解説」という副題がついているように、セビリアの船舶審判所の学者であった、ペドロ・デ・メディナ著の『航海の方法』を下敷きにしたものです。

17世紀は、天文学、物理学、地理学などの理論上の大発見が相次いだ世紀でしたが、発見と同時にその理論が航海の技術に生かされたかというと、そうでもありませんでした。なぜなら理論を実践で生かす方法論の充実が不充分であったことに加えて、15世紀にはすでにポルトガルとスペインを中心にして、膨大な航海経験が積まれ、その後2世紀を経てさらに蓄積された実践的な航海経験を受け継いでいた船乗りたちにとっては、新しく発見された理論の方が必ずしも正しいとは思えなかったからです。
実際に経験的航海術を体系化したのは、1503年に設立されたセビリアの船舶審判所という機関でした。この組織は17世紀の中期になるとあまり目立たない存在になりましたが、16〜17世紀初頭までは、蓄積された航海理論を体系づけ、それに基づくすべての技術を公的な制度として普及させるなど、海事技術の発展に貢献しました。航海の礎を築いたともいえる『航海の方法』(1545)を著したペドロ・デ・メディナや、『地球と航海術要項』(1551)を著したマルチン・コルテスも、それぞれこのセビリア船舶審判所の学者でした。この2冊の本は多くのヨーロッパの国々に広まり、フランス語、英語、イタリア語、そしてオランダ語に翻訳されて、17世紀末まで広く流布していましたが、特に『航海の方法』はイギリスで広く読まれ、航海上不可欠のマニュアルといわれたほどです。しかし、その一方でこの本は「正確ではあっても実用には問題がある」と皮肉られたり、逆に「実用的ではあっても正確とはいえない」という否定的な意見もありました。それでも総合的に見ると、『航海の方法』が17世紀に隆盛をみる航海技術の発達を導く基礎になったのは間違いありません。

観測器の精度の向上

デアゴスティーニ編集部

マドリードの海洋博物館に保存されているデービス式四分儀。

15〜16世紀にかけて、緯度・経度の知識とその計算法がある程度確立して、遠洋航海が可能になっていましたが、指標になる太陽や北極星の計測誤差の問題は依然として未解決でした。この問題が解決されたのは、測定値から現在位置を計算するために、かなり正確で実用的な『天体暦』が用いられるようになった17世紀のことで、それまでは15世紀にスペインのアブラハム・ザクートによって書かれた『万年暦』が使われていました。この暦は16世紀にポルトガル人が天体暦を作る元になったもので、以後17世紀の後半までその天体暦が広く用いられていたのです。
また、このような指標とする天体の計測誤差だけでなく、観測器の計測値そのものの精度にも問題があり、アストロラーベがスペインに伝えられて誤差が少なくなるまで、一般的に使われていたクロススタッフという観測器から得る数値には大きな誤差が生じていました。
17〜18世紀初頭にかけて、アストロラーベと併用して使われた観測機器に、バレストリーナという観測器がありました。これは16世紀末に登場してその後改良されたもので、太陽が水平線から60度以下の位置にある場合には、アストロラーベよりも誤差が少なく精度が高いものでした。
17世紀になると、アストロラーベやバレストリーナを使いながらも、より正確な方法が模索されるようになります。その最初のものは「海の環」と呼ばれるもので、1606年にセビリアで出版された航海術の手引き書であるアンドレ・ガルシア著の『航海法規』に理論上の説明が述べられています。理論上の「海の環」の構造はとても簡単なもので、環にあけた小さな穴を太陽光が通り抜け、環の内側に刻まれた目盛りを指す入射角度を示すようになっているだけです。これは、手間がかからず簡単に太陽の高さを測る方法のように思われましたが、残念ながら広まることはありませんでした。なぜなら、理論上は成り立っていても、現実には現代のレーザー光線のように細い太陽光を一点に集めることは不可能だったからです。
実際に広く実用化されたのは「イギリス式四分儀」、または発明者の名前をとって「デービス式四分儀」と呼ばれるものでした。デービスは1594年に出版した『船乗りの秘密』という書物の中で初めてこの四分儀について述べています。この四分儀は、目盛りのついたアーチ形の二つの定規をずらして組み合わせた形になっており、それぞれのアーチ部にスライド式の照準が付いています。太陽の光が上側のアーチの照準に当たっている状態で下側のアーチの照準の穴からのぞいて操作すると、二つの照準の目盛りから太陽の位置がわかるようになっているものです。このデービス式四分儀は、中程度の波がある状態で誤差が15分(1/4度)、全く凪いでいる状態ではわずか1分(1/60度)という高い精度を持っていました。これは凪の状態でのアストロラーベの1/2度、バレストリーナの1/3度という誤差と比べると、格段の進歩といえるものでした。

海図と数学の発達

デアゴスティーニ編集部

1609年に発行されたカナリア諸島の海図。17世紀には各国の興味がアメリカ新大陸に向けられていたので、よく知られたヨーロッパ近海の海図の精度はむしろ進歩しませんでした。

17世紀になっても使われていた地中海の近海海図や、アフリカ大陸の沿岸の海図には、緯度・経度が記されていませんでした。しかし、大西洋や太平洋などの大洋を航海するには、1569年にメルカトルが考案した投影図法の緯度・経度の基準線が必要でした。そして、この緯度・経度を基準にして航海するためには、船の現在位置をできるだけ正しく海図上に記入する必要がありました。しかし、メルカトル図法の平行な線にしたがって航跡を海図に記入すると、北極、南極に向かって弧を描くような航跡になるため、海図上での距離の補正計算は複雑で、航海士たちにとって容易なことではありませんでした。
このため補正計算の方法が研究され、17世紀前半に、簡単で正確な三角法計算のための表を作る数学と対数の理論が発達しました。1623年に数学者エドムンド・ギュンターが航海に応用できる三角法の理論を発表し、容易に三角法が解ける目盛りがついた二つの定規を連結した器具が現れました。その後も研究が進められ、「ギュンターのスケール」と呼ばれる、最新の対数理論を盛り込んだ器具も発表されました。
経験的な航法を重視する船乗りたちのなかには、このような進歩的な数学的航法に抵抗を示す者もいましたが、17世紀に開発されたこれらの航海術が、18世紀になって一般的な方法として普及する礎になったのです。

航海士の日常業務

デアゴスティーニ編集部

羅針盤によって航路をたどり、測定器を使って太陽や北極星の位置から緯度を計算して現在位置を割り出し、目的地までの距離を推定するのが航海士の主な業務でした。16世紀末のこの版画には、船尾デッキで太陽の高度を測っている航海士が描かれています。

目ざましい科学の進歩とは裏腹に、17世紀の遠洋航海士たちの悩みは、船の現在位置の推算と緯度計算をする精度の高い機器が手に入らないことでした。ほとんどの船は16世紀以来の器具を使っていましたから、計測数値を補正して推算するのは大変なことでした。しかしこれが航海士の日々の重要な業務だったのです。
航海士や船長は日時計によって正午を確認していました。正午は太陽が子午線の真上を通過する時なので、水平線から太陽までの高さを測定するのには1日のなかで重要な時間だったのです。太陽の軌道は日々移動し、365日を通じて1日として同じ天頂距離の日はありません。ですから太陽の高度を天文学者が作成した天体暦と照らして、その日の太陽の天頂距離がわかるようになっていました。天頂距離とは天頂に対する太陽の高さの余角ですから、その値は90度から太陽の高さの角を引けば求められます。
この数値を元にして緯度が割り出され、緯度がわかると、航海士がそれを海図に当てはめ、現在位置を推算する計算を所定の航路に当てはめて行っていました。
針路の方角を知るには羅針盤が利用されていましたが、速度から距離を求めるには16世紀に考案されたものと同じハンドログと呼ばれる測定器が使われていました。これは木製の浮き輪にロープをつないだもので、ロープには目印のために15.43メートルごとに結び目(ノット)が作られていました(ちなみに船の速度を表すノットという単位はこの測定器に由来するものです)。結び目の間隔は、計算をやりやすくするために120個で1海里になるように決められていました。あらかじめ時間のわかっている砂時計を乗組員が裏返すと同時に浮き輪が海に投げ入れられます。繰り出されていく結び目の数から一定時間内の航行距離がわかり、そこから船の速度もわかるというものです。砂時計にはいろいろな時間のものが用意されていましたが、速度を計るのに一般的に普及していたのは、15秒用、30秒用、1分用、30分用のものでした。
しかし、ロープと砂時計を用いるこの方法は、気象条件によって相当な誤差が出る恐れがありました。加えて当時は、メルカトル図法による海図の距離誤差の補正計算がまだ不充分であったことも考え併せると、この時代に大洋へ乗り出したガレオン船の航海士たちの現在地の把握という日常業務が、どれほど困難であったかがうかがえます。

※この記事は、週刊『セーリング・シップ』(デアゴスティーニ・ジャパン刊)を基に構成したものです。

公開日 2013/07/25


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