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江ノ島電鉄

【第21回】江ノ島電鉄


古都鎌倉や湘南の海岸といった、観光地を結ぶ江ノ島電鉄。「江ノ電」の名で親しまれ、風光明媚なロケーションで観光客に人気がある一方で、地域住民の足としても元気に活躍している。全線で10kmの路線には高架、住宅地、海岸、山越えと、凝縮したジオラマのような沿線風景が広がっている。

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観光鉄道の使命を受け継ぎ 起点駅は近代的な姿に変貌

デアゴスティーニ編集部

住宅街の間をまるでジェットコースターのように走り抜ける江ノ電の電車は、スリル満点だ。

江ノ電は、明治中期頃から湘南の観光開発が盛んになる中で計画され、部分開業を経て明治43(1910)年、日本の電気鉄道としては6番目に開業した。開業時から沿線の特色を活かした観光開発に力を入れ、現在も休日ともなれば観光客で賑わいを見せており、観光鉄道として開業した使命を継承しているといえる。民家の軒先をすり抜け、山越えのトンネルを潜り、海岸沿いを走ると思えば、併用軌道もある。観光客はその度に歓喜の声をあげ、目まぐるしく変化する車窓を楽しむ。だが、ただ漠然とのんびりとした風光明媚な単線のイメージを抱いたままで起点の藤沢駅を訪れると、まずそのギャップに驚いてしまう。
JRと小田急が接続する立派な駅ビルを構えた藤沢駅は、周囲をビルで囲まれるターミナル駅そのもの。江ノ電乗り場も駅前周辺開発の際に移転を余儀なくされたため、昭和49(1974)年に2階へ駅を設けて石上〜藤沢間を高架線にし、現在の姿へと変貌した。JR藤沢駅からは一旦外に出ねばならず、まるでデパートにでも入るみたいで、江ノ電の「単線をトコトコ走る」というイメージからはかけ離れている。

4両編成の小さな電車 観光鉄道と庶民の足の2つの顔を持つ

デアゴスティーニ編集部

石畳の階段や隙間なく建つ家々。周囲と一体化したような小さな踏切を、電車はゆっくりと通過していく。

味気ない自動改札を抜けると、近代的ではあるが、個性的なドーム型の上屋が目に飛び込んでくる。圧迫感はなく、丸い窓と相まってどこか異国の雰囲気漂う面白い構造だ。そこへ、4両編成の小さな電車がゆっくりと進入してきた。12分ヘッドの運行間隔なのでたいして待つ事もない。どことなくのんびりしているが、平日朝のラッシュともなると、ホームには足早に降りる通勤客や沿線の学校へ通う学生で溢れかえる。乗降するたびに小さな車体を揺らし慌しく発車していく光景は、休日の観光客で賑わいをみせる姿とは対照的だ。

高架から閑静な住宅地へ 都市的な景色を走り抜ける

デアゴスティーニ編集部

かつては松林が広がる別荘地であった鵠沼一帯も住宅が所狭しと建ち並ぶ。その中から、ひょいっと4両編成の電車が顔を出し、小さな車体をくねらせながら再び林立する住宅地へ吸い込まれるように走り去っていく。

藤沢駅を発車後、電車はビルの谷間を貫くように高架線を快走、35‰の下り勾配を一気に駆け下り、石上へと滑り込む。さらに電車は軽快に進み、かつて海岸に近い別荘地として名を馳せた柳小路、鵠沼と停まる。近年は松林がところどころ取り残された形で宅地化が進み、この辺りは山の手の閑静な住宅地が広がる。
藤沢から初めての交換駅である鵠沼は、昭和60(1985)年、近くを流れる境川の河川改修による嵩上げのために橋梁もろとも近代的な姿になり、路線で唯一、駅舎が地下に設置されている。
「駅前の敷石は要望があって、昔から変わってないんですよ。でも地下になって、お年寄りには階段が増えて大変みたい。昔は平面だったから電車が来たのを目にしてからでも乗れたのに……」
駅前のタバコ屋のご主人はそんな風に話してくれる。店内に飾ってある絵を見せて頂くと、そこにはゆったりとした時が流れるような木造駅舎が描かれていた。現在の駅からは想像もできないが、別荘地から閑静な住宅地へと変貌しても、ほのぼのとした空気感だけは、今も変わらずに駅を包み込んでいる。

古き良き暮らしの香り漂う江ノ島駅

デアゴスティーニ編集部

江ノ島駅前の踏切は三叉路上にある。線路と道路、両方が分岐する踏切というのも珍しい。

住宅地を縫うように車体を左右に振る、江ノ電らしい走りを堪能しているうちに、江ノ島駅に到着。藤沢から江ノ島までの路線は随分と曲がりくねっているが、これは用地買収の際、当時の有力者たちから提供された土地に線路を敷設したからだという。
江ノ島駅はその名の通り江ノ島の最寄駅であり、夏ともなるとホームは海水浴客でごったがえす。近年に新造されたとはいえ、ニス塗りの木造上屋や、幅の広い相対式ホーム、出入口が分離された出札口など、懐かしさの漂う観光地の駅という雰囲気がある。駅前を散策すれば、細い路地の住宅地の隙間から江ノ電が顔を覗かせ、地元で獲れた鮮魚を扱う魚屋もあり、海の香りのする町という実感が湧いてくる。

江ノ電名物の併用軌道区間を堪能する

デアゴスティーニ編集部

腰越駅付近に架かる神戸橋は道路と一体化した、いわば「併用橋」。流れが少なく鏡面となった川面に、江ノ電が映り消えていく。穏やかな午後のひと時。

藤沢行きと交換して発車するとタイフォンの響きとともに景色が一変し、今や江ノ電名物の一つともいえる、併用軌道区間を走る。商店街の道路上をカメのような速度で走り、周囲の車は慣れたように電車と歩調を合わせている。たまに勝手知らない車が立ち往生するたびに急制動をかける音が、辺りにこだまする。かなり大きな音だが、沿線の人たちはいつものことといった風で特に意に介す様子もない。商店街から見上げる電車はホームで見る小さな車体とは違い、かなりの迫力だ。
周囲にはシャッターが閉まったままの店舗や空き地なども見受けられる。併用軌道の光景だけは昔と変わらないものの、環境は確実に変化してきているようだ。かつては銭湯があり、脱衣所から江ノ電の奏でる音が聞こえたのだが……。

海が広がると思えば山あいを行く 目まぐるしく変化する車窓

デアゴスティーニ編集部

冬の淡い太陽を浴びながら、冷えきった海風をものともせず、軽快に海岸沿いを走り抜ける。水平線に浮かび上がる伊豆大島は、冬の朝しか見られない貴重な景色だ。

実際は短いのだが、長く感じる併用軌道を抜け、これも用地買収の関係で余儀なくされた急曲線の線形を、縫うというより路地裏を駆けるという感じで、くねくねと車体を揺らしながら、密集した家々の中を抜ける。
そんなスリルを味わっていると、突然視界が開け、車窓いっぱいに湘南の海が飛び込んできた。車内に一斉に太陽の光が差し込み、観光客は突然の絶景に驚いて海側の車窓に釘付けとなる。ただ、並行する国道134号線が片側1車線ゆえに終始渋滞、折角の絶景も台なしである。が、延々と続く自動車の列の隣を快走するのはなんとも気持ちがいい。渋滞知らずの江ノ電が沿線利用客に愛されている理由も、この光景を見れば納得できる。
忠実に地形と沿うようにして一度海と別れ、七里ケ浜へ近づくと、線路に面して玄関のある住宅が多くなり、専用の踏切が目立ってくる。細い並行道路との境には柵がなく、時折、線路寄りに歩く小学生が、電車の警笛で慌てて避けたりもする。こうした光景は数十年前の小私鉄という感じだ。
逆に七里ケ浜駅の山側は、マイホームブームによる新興住宅地が形成されている近代的な景色で、駅周辺には新旧の沿線風景が混在。江ノ電を取り巻く状況は、やはり少しずつ変化しているようだ。
国道は真っ直ぐ突き抜けるが、電車はここでも地形に沿うようにしてとことこと走る。やがて海に別れを告げると、今度は山あいで、車体をくねらせ車輪を軋ませる。この辺りまで来ると、谷間になっているためか、余計に山深く感じ、到底、同じ電車で高架線や併用軌道を走ってきたとは思えない。
トンネルが開通するまで終着駅だった極楽寺からは、静寂に包まれている木造駅舎や、鎌倉七切通しの一つ、極楽寺切通しがあるからか、難所に位置するような重厚な雰囲気を感じることができる。

古都鎌倉に至る線路沿いに 玄関を構えた住宅が広がる

デアゴスティーニ編集部

線路沿いの軒先は「どこにでもある」玄関が多く、それがかえって不思議に見えてしまう。

トンネルを抜けると、相変わらず軒先をかすめる中にも古刹があり、落ち着いた雰囲気。まるで、トンネルを境に湘南の海の匂いから古都・鎌倉の歴史をたっぷりと感じさせる香りに変化したようだ。
終点・鎌倉まで、両脇に住宅が立ち並ぶ景色が続く。それにしても、相変わらず線路側に玄関を構える家々が多い。いったい危なくないのだろうか。そんな当たり前の疑問を由比ケ浜の線路沿いに住む方にぶつけてみた。
「小さい頃から江ノ電と暮らしてきたからね。暗黙の了解っていうのかな、お互い気を付けているから事故は少ないし、車も来ない。ある意味一番安全な道だよ。時刻だって頭に入っているからタイミングみて出ればいいしね。でも、言われてみると変な光景だよね」
「そこにあって当たり前」。江ノ電は地域の生活に溶け込んだ、不可欠な存在だという事だろう。
観光客で満載の電車は、約30分の旅路を終え、終点の鎌倉へと滑り込む。藤沢とは対照的に、構内に土産物店が軒を連ねる観光地らしい駅だ。まるで両端駅が利用者の性格を表しているようで面白い光景である。
足早に折り返す四両編成の小さな電車。観光だけでなく、沿線の人々に愛され、懸命に走り続ける姿が、そこにあった。

※この記事は、週刊『鉄道データファイル』(デアゴスティーニ・ジャパン刊)を基に構成したものです。

公開日 2014/09/16


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