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氷見線 高岡~氷見

【第37回】大井川鐵道大井川本線 金谷〜千頭


北陸有数の都市、高岡から北に向かい、漁港の町・氷見までの全長16.5kmという氷見線は、その短い区間の中にあって、実に目まぐるしく車窓風景が入れ替わる、なんともミステリアスなローカル線だ。

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本線と支線が融合する乗換駅の持つ独特の香りが漂う高岡駅

デアゴスティーニ編集部

およそ人の手によって造られたものなど目につかない、民話の風景が展開する雨晴海岸沿いはまさにミステリアスなトワイライトゾーンといったところ。その景観には改めて惚れ惚れとさせられてしまう。

近代的な装備を誇る特急車両から一歩その駅に降り立ってみる。すると、そこにはなんとも懐かしい、本線と支線が融合する、乗換駅の持つ独特の香りが漂っていた。
北陸有数の都市である高岡市街への玄関口となる高岡駅には、ここから海側と山側の両方に伸びる支線、氷見線と城端線の基地となる高岡鉄道部が置かれ、多くの気動車が休む姿を駅ホームから眺めることができる。かつては蒸気機関車が煙を休め、蒸気と石炭、油と客車、気動車の燃料などの燃焼する匂いが混ざり合い、ターミナル駅の独特の風情に旅情をくすぐられたものだった。
そして現在。走る列車や積荷も変わったが、この駅には人々が作り出す鉄道の息吹がまだまだ残っていた。
ホームの端に立ち、しばらく昭和の駅の香りに浸っていると、北側の隅にある、木造の屋根と柱が懐かしい氷見線用ホームに気動車が入ってきた。しばしば大きな駅で支線に乗り換える時に感じるギャップそのままの光景だ。昼前の時間帯とあってか、あまり乗客は多くないが、2両編成の列車にはちょうどいいのだろう、ぱらぱらと人が降り、また、乗っていく。ガランガランという特有のアイドリングの音が響くホームには、やはり、あの燃料の臭いが立ち込めている。これからの、懐かしいローカル線の旅を予感させるには十分なシチュエーションだ。
のんびりと、ゆったりと……そんな期待を込めて、列車に乗り込んだ。

「特等席」に座り不思議路線の旅に出発

デアゴスティーニ編集部

高岡駅の南側に隣接する高岡鉄道部には、城端線、氷見線の車両が集結している。たくさんの車両たちが休むその姿には、かつて多くの蒸気機関車がここで煙を休めていたであろう機関区の風景を浮かび上がらせる。

2両編成の気動車は、ゆったりめではあるものの、席はほぼ埋まっている。沿線には、北陸地方有数の工業地帯があり、その関係だろうかスーツに身を固めたビジネスマンの姿も多く見られる。しかしそんな姿と相反して、懐かしい汽車の匂いのする気動車の車内は、まさに「昭和」そのものだ。旅の早々から北陸のローカル線をしっかりと物語っている。
氷見線といえば、富山湾に沿って美しい海と、立山連峰が車窓から望める一大名所、雨晴海岸が知られている。それを堪能するためにも、下り列車では右側に席を取りたいところだ。昼前のゆったりとした時間の中で「特等席」はあっさりと確保できた。気動車の独特のエンジン音とエキゾーストノートを響かせ、高岡駅を発車した。

目まぐるしく変化する車窓は気動車の走る近代路線……?

デアゴスティーニ編集部

巨大な工場群を「小さくなって」走ったあとは、古い町並みを縫うように通り抜ける。ここでは列車は大きく見える。

都市近郊にありがちな新旧の住宅が立ち並ぶ町並みを行くと、すぐに1つ目の駅、越中中川に着いた。ここは、氷見線内では1日約3000人という、最も平均乗降客の多いところで、駅前にはその象徴的な光景である多くの自転車が、規則正しく停められている。この辺りはまだ都市近郊のありふれた光景だ。  
新しい家並みが目立つ新興住宅地をしばらく眺めていると、急にその景色は途切れ、広大な枯れ草が目立つ原野のような原っぱが見えてきた。かと思うと、急に国道をくぐったところで、線路の両側に工場の高い塀が続き、その中をまるで圧迫されたように進み行く。車窓もあまり面白くない。その先の能町駅に着く前も、複雑に線路が入り組んだ先にコンテナヤードが広がっているのだが、こちらの、頻繁にDE10に牽かれた貨物列車が行き交う「臨港線」を彷彿とさせる光景の方が、それまで抱いていた甘いローカル線旅情をきれいさっぱり打ち砕いてくれて、かえって心地よかった。忙しく動き回るフォークリフトや貨車移動機を、模型のレイアウトに擬えたりして、割と楽しく見ていられた。
能町駅では、高岡から乗っていたスーツ姿のビジネスマンのほとんどが降りていく。ここは北陸地方有数の工業地帯であり、そのど真ん中を走る氷見線は、もはやローカル線とはいえないのかもしれないな……などと、遠くに見える工場の煙突から吐き出る煙をぼんやりと眺めながら考えていた。
沿線で唯一、大きな川を渡る小矢部川橋梁沿いには、巨大なプラントを見せる製紙工場や化学工場が立ち並び、何本もの側線が伸びる伏木駅のヤードには工場に出入りするタンク車が並ぶ。その光景は、まさに工業地帯に伸びる臨港線。つい数十分前まで抱いていたローカルイメージが、いそいそと遠ざかっていく。

工業地帯から人の息遣いの聞こえる古い町並みへ

デアゴスティーニ編集部

旧国鉄のポスターにも登場した雨晴駅舎は大正元(1912)年建築の木造。1990年代後半には外壁改修も行なわれた。

伏木駅は不思議なところだ。約90°カーブした線路の真ん中付近にホームがあり、どちらの方向も先は見えない。そのカーブの外側には何本もの線路が入り組み いかにも工業地帯の中心にある貨物ヤード駅なのだが、ふと駅舎を見ると、明治33(1900)年に建てられたという古い佇まいが残っている。そのミスマッチさがなんとも奇妙である。
カーブを抜けると、さっきまでの殺伐とした工場地帯が嘘のように消え、今度は下町や地方鉄道にありがちな、古い町並みの軒を縫うように進んでいく。
手を伸ばせば届きそうな屋根や電柱など、見れば、窓辺には魚やイカなどを干している家もあり、住む人の息遣いが聞えてくるようだ。「ああ、やっとこの地方に来たなぁ」という感慨がじわじわと沸いてきた……と思うも束の間、わずかばかりの田畑はすぐに過ぎ去り、今度は急に低い屋根の住宅が見え始めると、氷見線では最も新しい、昭和28(1953)年7月1日に開業した越中国分駅に着く。
駅前には相変わらず、規則正しく並べられた自転車が……。この線はやはり、すでにローカル線ではなく、都市近郊路線であることが、駅舎もなくホームの真ん中に小さな待合室があるだけのこの駅からも発信されているようだ。その事実はもはや既存の沿線では当然かつ必然的なことでもあるからなぁ……などと頬杖をついてそんな光景を眺めていた。この駅を出るまでは。

眼下に広がる富山湾と立山連峰 3分間の氷見線の不思議な瞬間

デアゴスティーニ編集部

たった3分間の移動空間の中に、車窓から見えるものは民話の世界の海だけ。ここは氷見線のミステリーゾーン。

いつものようにエンジン音が唸り、エキゾーストノートを轟かせて駅を発車。
その途端に、窓際に突っ掛かっていた頬杖はずるりと落ち、視線は車窓に展開する光景に釘付けとなった。
窓の真下に海が見えるのだ。
電化もされていない単線なので架線などあるはずもない。邪魔するのは短いトンネルくらいで、窓からは180°富山湾の美しい海の風景がそのまま望める。見渡す限り、人造建築物はない。男岩、女岩といわれる、いかにも海岸沿いに相応しい出立ちの奇岩が聳え、源義経が雨の晴れるのを待ったという義経岩(雨晴岩ともいう)が一瞬のうちに消え去っていく。なんとも、伝説の世界に飛び込んだような、どこか民話の中に入ったようなミステリアスな空間が移動する窓の外で展開される。
これが氷見線だ。
世界的にも珍しいといわれる、海越しに3000m級の山脈が連なる立山連峰の姿こそ、残念ながら雲か霞に邪魔されて見ることはできなかった。しかし、この光景こそ勝手に求めていた氷見線のイメージであり、それがそのまま目の前に展開されたのだった。おそらくは鉄道が敷設された当時からほとんど変わらない風景が、あまりにも新鮮に目玉に突き刺さってきた。
雨晴駅に到着するまでのたった3分足らずの光景に、この線のすべてを見た気がした。なんとも不思議な気分になった。

漁港の町・氷見から延びる 夢に終わった羽咋延長線

デアゴスティーニ編集部

氷見駅の先は、盲腸線の魅力でもある線路の車止めで終わっている。かつてはこの先の七尾線の羽咋までの夢があった。

氷見線は、中越鉄道が明治31(1898)年1月2日、北陸本線よりも先に、富山県内では最初の鉄道となる城端線を全通させ、明治33(1900)年12月29日に高岡〜伏木間を開業したのがルーツとなっている。その後、大正元(1912)年9月19日に氷見までが全通した。この先、七尾線の羽咋まで延長する計画があったというが、夢に終わっている。
どん詰まりの駅、氷見駅のレールの先は、やはりここまで目にした、整然と並べられた自転車が重なる駐輪場となり、いかにも都市近郊の駅ぶりを示していた。しかし、そんな駅でも一歩出てみると、魚で困ることはないといわれる漁港の町に相応しく、商店街に軒を連ねる魚屋には、「ジス・イズ・新鮮な魚」が並び、活気に溢れていた。
都市近郊の住宅地、工業地帯と巨大プラント、古い町並み、海岸スレスレの絶景、駅前の駐輪場、古い駅舎、臨港線と貨物列車、ドン突きの駅、そして漁港と魚屋……。たった27分の乗車区間にあって、これほど目まぐるしく車窓の展開する路線は、あまり聞いたことがない。「北陸のミステリアスライン」として、勝手にインプットしておこう。
不思議な鉄道を辿った帰りの列車では、来る時には雲がかかって見えなかった立山連峰が夕陽に浮かび上がっていた。その、思わず息を呑むほどの美しさに、瞬きも忘れ、窓に張り付いていた。

※この記事は、週刊『鉄道データファイル』(デアゴスティーニ・ジャパン刊)を基に構成したものです。

公開日 2016/02/01


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