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久留里線 木更津〜上総亀山

【第65回】久留里線 木更津〜上総亀山


タブレット閉塞が残り国鉄型気動車が走る、東京から最も近いJRローカル線、久留里線。いつ訪れてものんびりムードだが、地元の高校生たちが賑やかに列車に乗り込んでくる。のどかな風景と元気いっぱいの声が同居する、どこか楽しく元気な路線だ。

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の〜んびりと木更津駅を出発 あっという間に現れる水田地帯

木更津駅の構内には千葉運転区木更津支区があり、久留里線の車両が常に滞泊。架線がないのでゆったりムード。

旅の始まりは木更津駅4番ホーム。東京駅から1時間足らずの首都圏であり、すぐ近くには東京湾アクアラインが走る環境でありながら、この4番線に限っては「架線」が張られておらず、ほかのホームとは明らかに時間の流れ方が異なっている。アイスクリームを食べながらの〜んびりと列車を待つ、ジャージを着た中学生部活軍団、買い物帰りのオバチャン、ベンチにゆっくり腰掛けるオジサンたち。何だか、ちっとも忙しい感じがしない。隣のホームにはグリーン車を連結した横須賀行きの15両編成がせかせかと往来しているというのに……。
「ガラガラガラ……」
紫色の油の匂いと煙を漂わせながら、3両のディーゼルカーが、これまたのんびりと入線して来た。
2両連結の列車は、ロングシートと吊り手の通勤型だが、ドアは2扉で広々閑散。車内では女の子がお弁当を食べている。
発車の放送が流れ、ドアが閉まる。さあ、出発だ。
木更津市街を抜けると、久留里線は、あっという間に田んぼの中を走るローカル線になる。いや、最初からローカル線……か。
「ダタン、ダタン」
速度はゆっくりで、祗園、上総清川、東清川に停車。3駅とも片側1面のホームに2本のレールのみの乗降場。無人駅で、押ボタン式の乗車証明発行機が置いてある。駅の反対側はすべて田んぼで、緑の早苗が風にそよいでいる。列車は焦らず急がず、マイペースで進んでいく。線路は草がボウボウ、しかも単線でヘ〜ロヘロ。平行する道路を走るピカピカの乗用車に抜かされようと、久留里線の列車はひたすらにマイペースを保つのだ。
Y字形のポイントを渡って、交換駅の横田に到着。列車の行違いのために停車。ここでタブレットが交換される。青空の広がる駅がとても気持ちがよさそうなので、降りてみた。

残りわずかのタブレット閉塞 非自動で温かい改札口

久留里線の安全を守る通票閉塞器。駅にあるこの箱でタブレットの出し入れを行なっている。

久留里線は、全国でも数少ないタブレット閉塞が行なわれている路線である。タブレット閉塞は、自動閉塞が普及する以前からある、由緒ある保安システムだ。区間中(1閉塞)にタブレットが1枚しか取り出せない閉塞器が各駅にあり、ここから取り出したタブレットを「通行手形」として列車に持たせ、原則として1閉塞に1列車しか走ることができないようにして事故を防ぐものだ。
タブレットは真鍮でできていて、革製の輪っかのキャリアに入れられる。タブレットはおおむね「○」「△」「□」の穴と欠き取りがあり、駅間ごとに区別されている。タブレット閉塞は、鉄道の母国・イギリスで開発されたのちに日本全国の路線で採用され、世界的にも多く使用されているのだが、日本では近年急速に自動化が進み、タブレット閉塞が見られるのは、ここ久留里線ほか、ごくわずかになってしまった。
「チンチン……」と閉塞器から鐘の音色が聞こえてくる。相手の駅との連絡を取り合う印である。赤い閉塞機にタブレットが入れられる。原始的だが、人の手による確実な作業が列車の安全を守っている。
「すいません、おいくらかしら?」
横田駅には、対話のできる切符売り場もある。自動券売機もあるのだが、その横にはちゃんと窓口が設えられている。いい忘れたが、この駅は首都圏にありながら自動改札はない。その代わりに切符を人の手で受け取ってくれるし、発車時間、乗換え先、わからないこと、困ったことは何でも教えてくれる、「最高級の改札口」がある。
木造の駅舎には待合室があり、傷だらけながら、大事に使われてきた木製のベンチがあり、手製の座布団がかけられていた。地元の女子高校生やギャルたちもコンビニのサンドイッチを食べたり、化粧をしたりと、駅を大いに利用しているが、ゴミを散らかすわけでもなく、落書きするわけでもなく、ケータイでメールを打ちながらも、久留里線を日々の列車として大切に利用している。

田んぼと青空の中を元気に走る列車

下郡〜小櫃間の房総丘陵ののんびりとした景色の中を、ゆっくりと、ゆっくりと上がっていく気動車。身に纏った、軽快なイメージの独特のカラーリングもすっかり板に付いてきた。

横田からは再び田んぼと青空の中をゆっくり走る。久留里線の列車以外に走っているのは、バイクくらい。
車内では幼稚園児がお絵かきをしている。久留里線は高校生のみならず、小学生や幼稚園も通学や通園に使っているのだ。それを高校生たちが温かく見守っている。
列車は小櫃川沿いに開けた田園地帯をなおも進む。
久留里線は、のんびり開けた平地と青空が本当によく似合う。丘陵地帯が見えてアップダウンも始まってきた。
久留里線は当初、大多喜を経て大原に至る鉄道として計画がされたのだという。現在の「いすみ鉄道」はその前身が国鉄木原線であったが、これは図らずも木更津と大原を結ぶ予定の路線であった。つまり、久留里線は「房総横断」という大きな夢を抱いていた路線だったのである。木原線は上総中野で小湊鉄道と連絡し、旅客の立場としては鉄道で房総横断を実現しているが、霊峰清澄山系からなる房総の台地は意外なほど険しい。ちなみに、房総横断にひと役買った小湊鉄道ですら、名前が示す通り当初の目的は外房の安房小湊まで開通させること、だったのだ。先人の野心にただただ感服するのみである。
さてさて、当の久留里線は、平坦の少なくなった丘陵をエンジン音を響かせながら、なおもゆっくりと進む。小櫃はかつては列車の交換が行なわれていた駅だが、今は1面ホームのみの無人駅だ。さらにコトコト走って、隣の俵田はホームが住宅の中にある面白い駅。聞けば、かつては立派な駅舎が存在したが民間に払い下げられ、その後、家主さんが建替えをしたのだという。

希少車キハ37・38・30 久留里線のみの国鉄型気動車

素性が同一のキハ38とペアを組むキハ30が走り行く。ちなみに、意外と知られていないが、千葉は実は美味しい米の産地としても有名な土地。その水田に、列車がよく映えている。

久留里線にはキハ37、キハ38、キハ30という今ではここでしか見られない形式の気動車が走っている。キハ37は、もともと国鉄末期に誕生した準通勤型の気動車で、時節柄、省エネルギー、コストダウンを目指して5両が製作された。コスト削減をスローガンに廃車発生品を使用した車両は久留里線と加古川線に投入された。その後、辛くも久留里線の車両は生き残り、ローコスト車とは思えないカラフルな出立ちとなって、元気に頑張っている。続くキハ38は、やはり国鉄末期に旅客サービスの向上を目的として、また、キハ35型グループの置換え用として、同車の台車、変速機を流用して新製された形式だ。もちろん、こちらも少数派。八高線で使用されるも「活躍期間」は永くはなく、久留里線に安住の地を求めてやってきた。
そして、通勤型気動車の草分けであるキハ35型グループの生き残り、キハ30。この車両が未だに現役で走り続けているのだから、不思議というか、まぁ、奇跡である。
キハ35型グループは都市近郊の非電化区間の通勤輸送のために製造された気動車で、外吊り式の3扉ロングシート、切妻、グローブ型ベンチレーターなど、通勤型電車の気動車版のような特異な車両であった。各民鉄にも身売りされたが、JRでは、これもまた久留里線だけに残っている。各形式とともに仲良く同居しており、独特の外吊りドアを特徴に、どっこい毎日元気に走っているのだ。
寒冷地装備の車両なのでドアに開閉用の押ボタンがあり、これを押すと「プシュ〜!」と空気音も賑やかにドアが開く。ちょっと古い列車の車掌気分になれるのもキハ30の楽しいところだ。

銘水の里久留里に到着 市中に湧き出る井戸水

伝統の久留里駅は瓦葺きで木造のきれいな駅舎だ。手入れも行き届いている。大切にされているのだろう。

格調のある静かな町並みが広がると久留里に到着である。
駅もなんと格調高く、また風情に溢れていることか。2面のホームは階段のある構内踏切で結ばれており、瓦屋根の立派な駅舎が構えている。
久留里は、戦国時代に築かれた久留里城がある城下町として栄えてきた。そして、町の至る所に井戸があり、水がこんこんと噴き出している。それも、本当に普通の道端、家の軒などといった場所に、ごく自然に井戸がある。蛇口が付けられているものは、ひねれば勢いよく水が湧き出る。飲んでみると味は「甘くまろやか」で、そんじょそこらのミネラルウォーターでは太刀打ちできない極上の銘水。それもそのはず、井戸は「上総堀り」と呼ばれる地下数百メートルの大深度まで掘削し、岩盤の圧力で自噴させるという、この地独自の特殊な方法なのである。この美味しい井戸水は、上総の台地に染みこんだ水滴が永い永い時間をかけ、その奥底にやっと到達した、まさに悠久の恵みである。 
そんな井戸水は、地元の人たちの生活の水にもなっており、また、この「銘水」を求めて遠くからわざわざやって来る人も、多く見られるという。

駅長はまるでオヤジのよう 終点亀山にラストスパート

久留里線は幼稚園も高校生もみんな一緒のスクール・カー。とにかく和やかな雰囲気たっぷりの車内なのです。

空いたペットボトルに井戸水をたっぷり汲んで、久留里駅に戻ってみた。
駅はまた高校生たちでいっぱいだ。久留里線はまるでスクール・カー、学園列車なのである。
昼飯だって青空ホームでわいわい食べる。「地べたにしゃがむな!」なんて野暮なことは誰もいわない。だって楽しいじゃないか。
上り列車がやって来る頃、ホームは高校生たちでごった返す。狭い構内踏切がとにかく忙しい。踏切には遮断機も警報機もないが、この子らをしっかり見守るのは駅長さん。まるで父親のように、最後の1人まで見届ける。手に持っているのはタブレット。「久留里〜横田○」だ。「よし!」。上り列車は発車する。
久留里からは運転本数が少なくなる。その代わり、さらに上総丘陵のただ中を走るので、風景は山間の色が濃くなってくる。竹林が多く見られ、トンネルもくぐる。勾配も険しくなり、エンジンも唸りを上げる。
平山、上総松丘と丘陵を上ると、終点の上総亀山に到着する。線路はしばらく直線で延び、車止めで終端していた。この先、大多喜への夢は果たせないまま終わった。だが、久留里線独特の、底抜けに陽気な青空と明るさに救われた。

※この記事は、週刊『鉄道データファイル』(デアスティーニ・ジャパン刊)を基に構成したものです。

公開日 2018/05/15


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