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越美北線 越前花堂〜九頭竜湖

【第66回】越美北線 越前花堂〜九頭竜湖


北陸の中核都市、福井から山間部に南下する越美北線は、古くからの文化と現代のアウトドアスポットが沿線に交錯する穏やかな土地を行く観光路線である。平成16年(2004)の大水害から復活を遂げた越美北線には、鉄道存続のための地元の熱意と、かねてからの優しい空気が見てとれる。

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廃線必至・再開不可能といわれた未曾有の大災害からの復活

橋梁、橋脚、河川敷……すべてが流され、なにもなくなっていた第2足羽川橋梁は、地元の熱意により復旧し、真新しい橋梁に生まれ変わった。小春日和の山郷には、今では何事もなかったかのようにキハ120の単行が行き交う。

「川が竜のように荒れ狂い、悪魔のような水が押し寄せてきた」
平成16(2004)年7月18日、記録的な豪雨が福井地方を襲い、九頭竜川水系の足羽川に架かる越美北線の7つの橋梁のうち、5つの橋梁が流失する被害が発生。その状況を伝えた当時の地元の新聞記事には、そう、記されていた。
この大災害により、橋梁が架かっていた一乗谷〜美山間は完全に不通となった。全線の復旧には数年を要するとされ、そのうえ新線建設と同等の多額の費用が必要となる……などの理由から、この時点では路線存続は危ぶまれ、廃線は必至とも思われた。
しかし災害復旧まで先が見えない状態の中、線路は元の姿のままで残っていた越前大野〜九頭竜湖間では災害の2日後の7月20日から、この区間に残っていたキハ120の3両を使用して運転を再開。同年9月11日には、福井側にはキハ120が2両しか残っていなかったため、鳥取鉄道部や高岡鉄道部などからキハ58型などを借り入れ、越前花堂〜一乗谷間と、美山〜越前大野間も運転を再開。一方では、橋梁が流された区間には代行バスを走らせ、鉄道存続に猛アピールを見せた。
その甲斐もあり、鉄道復旧を望む地元の声は次第に増してゆく。平成17(2005)年10月17日には復旧工事が始まり、文字通り、ズタズタに切り裂かれた橋梁の橋脚から建設が始まるという、基礎からの工事がスタートした。
そして、あの大災害から3年が経った平成19(2007)年6月30日、越美北線はついに全線で復旧を果たし、また元のように橋梁を渡るジョイント音が響き渡ることとなった。

悪夢が信じられないほど穏やかな川と車窓の風景

越前大野駅からさらに奥に入り込むと、広々とした水田地帯から山岳へとその姿を変えていく。真冬には辺り一面真っ白の銀世界となり、やっと訪れた春の気配とともにこの土地に生きる生計を託すべく生活が始まる。

北陸の中核都市、福井の玄関口となる福井駅は、平成17(2005)年4月18日から高架駅として生まれ変わり、近代的な外観を見せている。そんな新しく整備された2番ホームには、ちょっと近代的な駅には似合わない、越美北線、九頭竜湖行きのキハ120が2両編成で停まり、発車を待っていた。朝のラッシュも落ち着いた時間帯で、乗客も少なくボックスシートを悠々と独り占めだ。
福井駅を発車すると次の越前花堂までは北陸本線を走る。さすがに軽量気動車で地方交通線用に開発されたキハ120だけあり、加速と高速性能はいい。あっという間に越前花堂に着き、乗降もないまますぐに発車。「そういえば、この越前花堂にはかつて福井機関区があり、最後まで越美北線に残ったSL、ハチロクのねぐらになっていたなぁ……」などと思い起こし、それがあったと思われる場所に目をやるが、残念ながら今では跡形も確認ができない。ちょっと名残惜しく後方を見ているうちに、列車は北陸本線と別れ左に大きくカーブを描き、急に広がった、だだっ広い水田の中を真直ぐに進んでいく。
「おぉ〜、これぞ北陸のローカル線じゃ!」などと、わけのわからないことを呟きながら、どこか異国にも似た牧歌的なのんびりとした光景の中に浸っていると、越前東郷を過ぎた辺りから、遠くに見えていた足羽川が近づいてくる。
真新しい水郷や河川の整備は、平成16(2004)年7月18日の大水害を物語るのだろう、自然のものとは異質で、人の手の加えられたことが明らかにわかるように、河川の形が大きく変わっているのが見て取れる。そして一乗谷を過ぎると、5本の橋梁が流出した場となった足羽川を連続して渡る区間となる。
少々緊張してその現場を見るが、確かにまだ整備段階の工事が進行中の箇所がある。河川も橋梁も真新しく、その意味では災害の大きさが把握できるのだが、訪れたこの日は春爛漫の陽気。川の流れもたいへん穏やかで、「竜のような悪魔の水」といわれた流れが信じられないほどの柔らかな空気が広がっている。
桜が満開となった市波駅を発車し、最も被害が大きく橋脚を「災害の記憶」としてモニュメントで残した第7足羽川橋梁を渡る時、身を乗り出して川を眺めてみた。新しい鉄橋の真下には、春の陽気で溶け出した豊富な雪解けの流れが、まるで悪夢などなかったかのように緩やかに流れ、キラキラとした太陽の反射が列車を見送っていた。

郷土の歴史の宝庫を進み山裾を縫うように走り行く

越美北線のハイライトともいえる柿ケ島〜勝原間に架かる第2九頭竜川橋梁は「乗ってよし、撮ってよし」の最も絵になる所だ。山深い渓谷に沿って走る沿線には、鹿や猿などの野生動物を目の当たりにすることもある。

福井から足羽川に沿い、なだらかな水田地帯を走ってきた列車は、美山を過ぎると山間部に入り、最初の峠へと差しかかる。かつて最後までこの線を走ったSL、8620型が咆哮を繰り返した花山峠を、新鋭のキハ120はエンジン音も軽やかに越えていく。
計石を過ぎ、サミットとなるトンネルを越えると急に視界が開け、広々とした大野盆地の中をのんびりと走る。
奥越の小京都と呼ばれ、碁盤目状の町並みが歴史を物語る城下町・越前大野駅の構内は広く、かつて車庫や検車区があったことを偲ばせる。福井から2両編成で来た列車は、この駅で1両ずつに分割され、この先、九頭竜湖方面と福井方面にそれぞれ分けられる。ここまで淡々と走ってきた列車はここから単行になるが、地元の人に加えて、トレッキング姿の観光客やレールファンなど乗客は意外と多く、この線が観光という面においてもひと役買っていることがうかがえる。
さて、ここからは右手にまだ残雪の荒島岳を見ながら徐々に回りの山が近づいてくる。つかず離れずで沿い、流れる九頭竜川の山肌も荒々しくなり、渓谷の様相を見せ始めてきた。いよいよ山岳に入り組んでいくスリリングな光景が展開するのだ。
運転士さんに許可を取り、前方が丸見えのキハ120の最前部に立ち、そんな光景を眺めてみた。真直ぐなだだっ広い水田地帯の左手車窓には、残雪が美しい荒島岳が単行の列車を見守るように付き添い、なんとものどかな光景が展開する。しかし、駅ホームのすぐ傍にまで畑が広がる越前富田駅を過ぎると急にS字カーブとなり、列車は、ここを山裾を縫うように走る風景へと、表情を一変させた。
「この辺は雪が深いから、春になるとホッとしますわ」
わずかな停車の際にそう話してくれた温和な風貌の運転士さんの言葉は、そのままこの土地に生計を託す生活に大きく影響することでもあり、だからこそ、あの未曾有の大水害の被害でさえも、復旧を望む声は大きかったのだろう。そんな真冬の光景を想像しつつ前方を眺めていると、レールの先は徐々に険しさを増し、「山岳鉄道」の様相を呈してくる。

フルスロットルでトンネルを通過未成線を向こうに望む終着駅へ

車止めが終着駅を演出する九頭竜湖駅。モダンな駅舎が建ち並ぶ通年の観光地として、年間多くの観光客が訪れる。

キハ120のエンジン音が山間に響き渡り、かなり高度のある第2九頭竜川橋梁を渡ってトンネルをくぐると、昭和47(1972)年12月15日に九頭竜湖まで延伸するまで越美北線の終着駅であった勝原に到着だ。現在では1線のホームがあるだけだが、草生した空き地には、かつてターンテーブルや官舎、保線区があった広い構内の跡が偲ばれる。
ここから終着の九頭竜湖まではほとんどがトンネルで、途中にスノーシェッドで繋がる全長約6000mの白谷、荒島トンネルを、22‰の勾配でまずは登っていく。これまで50km/h以上の速度はほとんど出さなかったキハ120も、ほぼ直線で進むトンネル内では初めてかもしれないフルスロットルで、軽快な走りを見せてくれる。
数分後前方にぽつんと小さな明かりが見え、それが徐々に大きくなると、九頭竜湖を渡る橋梁の上に駅が設けられた越前下山駅に着く。ここから眺める山々は、すでに白山連峰から連なる山岳地帯の懐に入り込んだように目前に迫ってくる。
列車は九頭竜川を渡り、再び下山トンネルに入るが、やはり直線に掘られた隧道内はフルスロットルで走り高度を上げる。数分後にトンネルを飛び出したとき、目の前に大規模なスキー場が現れ、年間多くの観光客が訪れる九頭竜湖へのアプローチとなる町並みが近づくと列車は越美北線の終着駅、九頭竜湖に到着した。
九頭竜湖は、終着駅らしく、レールはホームの先で途切れ、車止めがこちらを向いている。この先レールは越美線として東海地方に向かって延び、越美南線(現・長良川鉄道)と結ばれる予定だった。未曾有の大災害から見事に蘇った越美北線、そして「その先」の未成線……。そこに、なにか不思議な運命を感じてしまうのである。

※この記事は、週刊『鉄道データファイル』(デアスティーニ・ジャパン刊)を基に構成したものです。

公開日 2018/06/15


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