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小湊鉄道

【第61回】小湊鉄道


東京湾沿いの工業地帯から田園地帯を抜け、山間部を越えて走る小湊鉄道。ツートンカラーの気動車や木造駅舎、そして鉄路を守る人たちが車内や駅で数多く見られる、昔ながらの鉄道風景が残るローカル線である。

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桜の咲く頃になると会いたくなる ゆったりとした時間の流れる鉄道

デアゴスティーニ編集部

東京からわずかの距離であるにもかかわらず、昔ながらの「日本のふるさと」の風景が残っている小湊鉄道。雰囲気のある木造駅舎とともに、各駅には桜が植えられ、訪れる人の目を楽しませる。

桜前線が北上する頃になると、いつも気になる鉄道がある。
日本には「桜の名所」と呼ばれる所は数多いが、「桜と鉄道」をモチーフに撮影しようとすると、なかなかうまく撮れる場所は少ない。線路脇に桜が咲いていても、架線や架線柱が邪魔をしたり、一日中光線の状態が悪かったりと、撮影アングルに苦労するケースが多々ある。そんな中、東京からも近い千葉県に、ほぼ全駅に桜が植えられている私鉄がある。桜や青空を邪魔する架線や架線柱のない、非電化のローカル線だ。
その鉄道の魅力は桜だけではなく「本当に東京から1時間弱の場所だろうか……」と思うほど、ゆったりとした時間が流れて行く、やすらぎを感じることができるのも魅力である。現代の日本では見る機会が少なくなった「鉄道の原風景」に会える場所、それが小湊鉄道である。

小さな鉄道ならではの柔軟な対応と古き良き鉄道風景が繰り広げられる

デアゴスティーニ編集部

水ぬるみ、田んぼに蛙の合唱が響き渡る。時折、彼らの声を掻き消す気動車がやってくるが、幾人かの客を乗せ、ジョイント音が消え行くと、再び合唱がはじまった。

東京駅から総武線快速に乗って約1時間。車窓に京葉工業地域の煙突が立ち並ぶ風景が広がってくると、内房線の五井駅に到着する。小湊鉄道は、この五井駅を起点とし上総中野までの39.1kmを結ぶ単線の鉄道だ。
JRの長いホームに止まるステンレス製のE217系とは対照的に、短めのホームの小湊鉄道には、朱とクリーム色をした短い編成のかわいらしい気動車が止まっている。国鉄のキハ20に準じて設計されたキハ200で、昭和36(1961)年から日本車輌で14両製造された車両だ。車内がロングシートなのが少し残念ではあるが、今では希少となったDMH17C型機関のエンジン音をカラカラと響かせながら、のんびり乗客を待っている。
それは、かつて川越線や相模線、八高線といった首都圏近郊で見られたキハ30やキハ35が、幹線を走る特急列車の脇で出発を待つ光景に似た、国鉄末期を彷彿させるのどかな雰囲気だ。
近年、テレビのドラマやコマーシャルで、小湊鉄道が登場する機会が多い。東京から近いこともさることながら、原色を用いたツートンカラーの気動車や、手書きの駅名板や時刻表が並ぶホーム、そして開業時から使われている木造駅舎など、日本の鉄道ではひと昔前まで見られた風景が残されている点が、ロケ地として採用される理由なのだろう。しかし、小湊鉄道にはそのようなハードの面だけでなく、人間が鉄道に携わるソフトな面でも「懐かしさ」を感じずにはいられない。
はじめて小湊鉄道を訪れたのは、沿線の景勝地「養老渓谷」が紅葉する秋の休日。内房線の臨時列車から、五井駅で小湊鉄道へ乗り換えると、2両編成の座席が埋まるほどになってしまった。その後、内房線の定期列車が到着すると車内は満員の状態に。通常の鉄道であればそのまま発車させるところだが、急きょ機関区から気動車を1両増結させる手配を取ったのである。定刻よりも5分遅れて発車したが、最近の日本の鉄道では見られなくなった「人間が鉄道を動かす」あたたかい対応に触れることができたのであった。

手の入れられた保存車両や木造駅舎 物を大切に使う気持ちが息づく

デアゴスティーニ編集部

木造の駅舎に、手書きで書かれた表札。何人の人たちがこの改札口を通り、人生を歩んでいったのだろうか…。

五井駅の脇には、車両基地である五井機関区がある。その奥に、かつて使用されていた蒸気機関車が3両静態保存されている。2両(1号・5776、2号・5777)は、アメリカのボールドウィン社製で、大正時代の開業時から昭和37(1962)年まで使用されていた車両だ。もう1両は、昭和21(1946)年に日本鉄道から譲渡されたイギリスのピーコック社製のB104号である。よく公園で雨ざらしになってボロボロになった保存車両を見かけるが、これら3両の蒸気機関車は屋根付きの場所で良好な状態で展示されている。鉄道施設では珍しく、千葉県の産業遺跡にも指定されているほどだ。
また、大正13(1924)年生まれの木造無蓋貨車、トム11・12の2両とワフ1の1両が現在も線路のバラスト輸送に使われており、時折駅の引込み線に置かれている姿を見ることができる。
小湊鉄道の多くの駅では、長年使用された木造の駅舎が現役で使われていてコンクリートやモルタルでできた駅舎にはない、木造ならではの温もりを感じる。また、地元の人による手作りの座布団が椅子に置かれ「町の人が集う場所」としての機能を果たしている点も窺える。木造駅舎と桜、そして赤とクリームの気動車という組合わせは「物を大切に使う日本人の心」がなければ見られないふるさとの風景ではないのだろうか。

房総の田園地帯から山間で聞こえる 2本のレールが奏でる鉄路の響き

デアゴスティーニ編集部

菜の花に彩られた田園地帯の径を、単行の気動車がトコトコ走る。東京からわずか1時間弱の場所に広がるのどかな風景。

始発となる五井駅は、多くの乗客が内房線を連絡して利用する。駅の改札口はJRに委託し、内房線から乗り継ぐ乗客には、ホームで駅員が乗車券を発行する。駅名が書かれた補充券スタイルの切符に「パチン、パチン」と穴を開けながら発行する光景は、携帯端末が普及した現在ではなかなか見ることはできなくなった。
五井駅を発車した列車は、内房線から離れて左へカーブし内陸部へと進む。非電化の単線とは対称的な館山自動車道をくぐり抜けると、田園地帯が続く風景となる。いくつもの踏切がある中で、時折「カンカンカン」という電子音ではなく「チコン・チコン・チコン」と、アナログ式のベルを用いた音も聞こえてくる。それだけでも懐かしさを感じる人は多いのではないだろうか。
上総牛久までは東京方面への通勤圏内で、ほとんどの駅が有人駅である。その駅員の中には、社員ではなく小湊鉄道から委託されて業務に携わる人がいる。五井の次の停車駅である上総村上には、小湊鉄道のOBであるおじさんが、日中、駅の業務に携わっている。交換駅でもあり、切符の発券などで忙しくない限り、発車する列車に大きく手を振っている。

上総牛久でタブレットを受け取り童話の世界にいる様な森の中を走る

デアゴスティーニ編集部

上総の台地に夜の帳が下りる頃、上総中野へ向かう列車がやってきた。テールランプを灯しながら、エンジン音を響かせて乗客を家路へと送り届ける。

上総牛久から先、20km離れた終点上総中野までは、交換設備がないために閉塞が1つの区間となるため、1つの列車しか進入できない。この区間ではスタフ閉塞を用いているため、日本の鉄道では数少なくなった通票用のキャリアを、駅員が運転士に渡して発車する。
市街地を抜け国道から離れ、竹林の続く築堤を走る。カーブを抜けると、田んぼの中にちょこんとホームがある上総川間に到着する。駅舎と呼べるのか判らないくらいのトタン屋根の待合室が、のどかな雰囲気に相応しい。列車の汽笛と車掌の笛以外に聞こえるのは、自然が育んだ生き物たちの声である。春はカエルの合唱が、夏は青空の下で鳴くセミたちが、秋はスズムシの輪唱が、冬は籾殻をついばむスズメの鳴き声が……。都会では感じられない四季折々の音が、小さな駅にこだまする。
田園地帯に緩やかなカーブを描きながら、上総久保を過ぎ、小湊川のダムに掛かる鉄橋を渡る。高滝から先は、田園地帯から一変して山間部を分け入るように列車が進む。人家が見当たらない雑木林の中を、単行の気動車がトコトコと走る風景は、幼い頃に見た童話に出て来る世界を思い出させる。
里見駅は朝になると「汽車通」をする小学生たちがやってくる。過疎化に伴い学校が統廃合され、上総大久保にある小学校まで通うためだ。都心のこどもたちの眼とは違う、いきいきとした表情に少しほっとする。
列車は雑木林の森を走り続け、養老川を渡る赤い橋を渡ると、沿線随一の観光地である養老渓谷に到着する。さらに2つのトンネルを越えると、菜の花色のいすみ鉄道のワンマンカーが待つ、終点上総中野となる。本来であれば、小湊鉄道はここから先も線路が続くはずだった。
小湊鉄道は、千葉県天津小湊町にある、日連ゆかりの「誕生寺」への参拝客輸送のために設立された。大正14(1925)年3月7日に五井〜月崎間が開通後、昭和3(1928)年5月16日に月崎〜上総中野間が開通したが、昭和9(1934)年にいすみ鉄道の前身である木原線が大原〜上総中野間で全通したことにより、上総中野〜小湊間の開業免許を失効、社名にのみ「小湊」の文字が残された。
小湊鉄道の創業者は、本来であれば房総半島を横断させるように駅の桜を植えたかったはずだ。しかし、「人が持つあたたかい心を持った鉄道」という面で見れば、確実に花は開いた。少子化やマイカーに押され、厳しい経営の時代となってもその心を失わずに、花が咲き続けることを願わずにはいられない。

※この記事は、週刊『鉄道データファイル』(デアスティーニ・ジャパン刊)を基に構成したものです。

公開日 2018/01/15


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