【第125回】おおすみ型 <輸送艦>
「おおすみ」型輸送艦は、海上自衛隊が運用する輸送艦の艦級。英語呼称と艦種記号では戦車揚陸艦(LST)とされているが、同様の艦船は、他国海軍においてはドック型輸送揚陸艦(LPD)などに分類されている。
輸送揚陸艦の機能をもつ戦車揚陸艦
「おおすみ」型は海上自衛隊の分類では戦車揚陸艦(LST)とされているが、ドック型輸送揚陸艦(LPD)の機能も持ち、外観は空母に似ている。艦尾のウェル・ドックと全通甲板(ただし格納庫はなく、後部にヘリコプター着艦スポットが2か所あるのみ)を有し、本来意図していたLSTというよりは、むしろアメリカ型のLHA(汎用揚陸強襲艦)を縮小したものに近い。
1955(昭和30)年、海上自衛隊の輸送・揚陸艦艇部隊は、MSA協定に基づいてアメリカ海軍より供与された汎用揚陸艇(LCU)6隻、機動揚陸艇(LCM)29隻によって舟艇隊を設置したことを端緒とする。
1961(昭和36)年にもMSA協定に基づき、アメリカ海軍のLST-1級戦車揚陸艦3隻の供与を受け、初代「おおすみ型」揚陸艦(のちに輸送艦に改称)として、第1輸送隊を編成した。その後、さらに国産の1,500トン型(45LST)3隻を地方隊向けに、2,000トン型(47LST)3隻を第1輸送隊向けに建造・配備して、海上作戦輸送能力を整備してきた。この海上作戦輸送は、海外への侵攻に直結する海上輸送とは区別されており、日本国内に敵が侵攻してきた場合を想定して、敵の支配地域やその近傍に陸上自衛隊などの部隊を輸送するものである。
最初期計画では、1,500トン型(45LST)の代艦として、3,500トン型輸送艦が計画されていたが、昭和62年度から平成元年度にかけて、従来のLSTと同様のビーチング方式で、速力16ノット以上、基準排水量5,500トン、ヘリコプターの発着艦機能を保有する輸送艦の要求が計画されたが、これは実現しなかった。また平成2年度計画艦として、基準排水量約9,000トン、速力22ノットで50トン型LCACを2隻搭載する輸送艦も検討されたが、こちらも実現しなかった。
「おおすみ」は1990(平成2)年に建造が認可されたが、三井造船の玉野造船所で起工されたのはようやく1995(平成7)年12月になってからであった。当初公開された完成予想図に示された寸法は、実際に完成した艦のほぼ半分の大きさで、イタリアの「サン・ジョルジョ」級LPDによく似ていた。「おおすみ」は1998(平成10)年に就役した。同じ造船所で建造された「しもきた」がこれに続き、3番艦の「くにさき」は日立造船の舞鶴造船所で建造され、2003(平成15)年3月に就役した。
舟艇運用機能
海上自衛隊が「おおすみ」型以前に使用してきた「あつみ」型や「みうら」型などの輸送艦は、物資を揚陸する際に直接砂浜に乗り上げるビーチング方式を採用していたが、ビーチング方式では揚陸適地が限られる上に高速力の発揮が限られ、また風浪階級が2を超える場合は、波打ち際の砂が移動するために、ランプウェイの接地状態が不安定となりやすく、機動性・揚陸適地選択の自由度に劣っていた。
このため、「おおすみ」型では艦内に2機を搭載するエアクッション艇1号型(エア・クッション型揚陸艇、LCAC)を使用して揚陸を行う。ビーチングでは揚陸に利用できる海岸が世界の海岸線の15%ほどだったのに対して、ホバークラフトによる揚陸では世界の海岸線の70%程度が利用できるとされる。また、従来用いられてきた上陸用舟艇(LCM)の設計を踏襲した交通船2150号型も搭載できるが、こちらは普段は呉基地での港内支援任務に従事している。
舟艇に車両を搭載する場合は、第4甲板前部の車両甲板から直接に自走して乗り込む。資材の搬入、搬出は艦橋構造物、煙突横に設置されたクレーン(力量15トン)で行うこともできる。LCACやAAV7を運用する場合は艦尾門扉を開くだけでよい。交通船などの在来型舟艇を運用する場合は、バラストタンクに注水して艦尾を下げることで、ドックに海水を導く必要がある。船体姿勢制御のためのバラスト水は、約1,300-3,000トン搭載できる。
LCACは大量の兵員や重火器等を搬入する能力が低いこと、また同規模のアメリカ海軍ドック型揚陸艦がLCACを3隻搭載しているのに対して本型の搭載数は2隻であることから、従来のLSTが揚陸艦としての機能に重点をおいていたのに対し、本型では輸送艦としての機能に重点をおいているとも指摘されている。
戦車中隊を伴った完全な揚陸部隊1個大隊の輸送用に設計された「おおすみ」型は、海上自衛隊の作戦用艦艇の中では最大級で、自衛隊の装備の大型化・機械化による輸送量の増加に対応している。各艦の防御兵装は6銃身回転式機関砲付きファランクス近接防御武器システム(CIWS)2基のみであるが、通常は支隊内で作戦行動を行うため、艦隊内の他の艦が防御を担当してくれる。
諸 元
おおすみ型
排水量:基準8,900t
寸法:全長178.0m、全幅25.8m、吃水6.0m
推進器:三井16V42M-Aディーゼル2基で出力27,600馬力を供給し、2軸を駆動
速力:22kt(41km/h)
兵装:ファランクスCIWS 2基
電子機器:OPS-14C対空捜索レーダー、OPS-28D水上捜索レーダー、OPS-20航海レーダー
軍用輸送能力:兵員330名、90式戦車10両または貨物1,400t、エア・クッション型揚陸艇(LCAC)2隻
搭載機:CH-47Jチヌーク・ヘリコプター2機(着艦スポット2か所)
乗員:135名
(この記事はワールド・ウェポン<デアゴスティーニ・ジャパン刊>をもとに構成したものです。)
[タイトル写真]U. S. Army/U.S. Marine Corp。
公開日 2023/05/25
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