【第128回】ミナス・ジェライス <空母>
「ミナス・ジェライス」は、ブラジル海軍が運用していた航空母艦。ブラジル海軍初の航空母艦で、艦名は同国のミナス・ジェライス州に由来する。元は第二次世界大戦中に建造されたイギリス海軍のコロッサス級空母「HMSヴェンジャンス」だ。
ブラジルにとって初めての本格的空母
ブラジル海軍の空母「ミナス・ジェライス」の前身は、元イギリス海軍の「コロッサス」級空母「ヴェンジャンス」で、1945年に完成した。アルゼンチン空母「ヴェインテシンコ・デ・マヨ」は、姉妹艦にあたる。3年後、「ヴェンジャンス」は北極への試験航海に赴き、1953年にオーストラリア海軍に貸与された。
1955年にイギリス海軍に返却された「HMSヴェンジャンス」は、1956年にブラジルに320万英ポンドで売却され、ロッテルダムのドックで1957年から1960年にかけて総合的な改装が施され、新たな武装や13,365kgの射出能力を持つスチーム・カタパルト、8.5°のアングルド・デッキ、ミラー着艦装置、新たなアイランド上部構造物、新型のアメリカ製レーダー、2基の航空機用中央エレベーターなどが備えられた。
近代化改修を受けた後、ブラジルに引き渡された。改修費用は購入価格の実に3倍以上にもなった。空母の配備を押し進めたのはブラジリアの建設でも知られる当時の大統領ジュセリーノ・クビチェックであり、艦名も彼の出身地にちなむ。
ブラジルにとっては初めての本格的空母であり、そのため搭載する固定翼艦載機の運用を巡ってブラジル海軍とブラジル空軍の間で白熱した議論が交わされた。その結果、1957年、空軍が艦載機の運用を主任務とする隊を新設し、空母に出向させることに決定した。この艦の艦隊への編入は1960年になってからで、対潜哨戒機の母艦としてであった。
退役後は競売に
1976年から1981年にかけて、同艦を1990年代も運用できるように、さらに改装が施された。この改装でデータリンク・システムが導入され、ブラジル海軍に配備中の「ニテロイ」級フリゲートとの連携が可能になった。また旧式化したアメリカ製のAN/SPS-12に代わり、新型のAN/SPS-40B 2次元対空捜索レーダーが装備された。「ミナス・ジェライス」の任務はもっぱら対潜攻撃で、1970年代以降の航空群の構成は、ブラジル空軍所属の8機のS-2(P-16)トラッカー、海軍所属の4機のSH-3/ASH-3シー・キングASWヘリコプター、2機のUH-12/UH-13エスクイロと2機のベル206B汎用ヘリコプターであった(ブラジル海軍では固定翼機の運用を許可されていなかった)。「ミナス・ジェライス」は2001年に退役している。
2002年に「ミナス・ジェライス」は競売にかけられた。競売参加者のほとんどはスクラップにして資源再利用を目的としていたが、ミュージアム艦としての利用を考える購入希望者もいた。特にイギリスのNGO “Friends of the HMS Vengeance”の計画では、第二次世界大戦中に建艦されたコロッサス級航空母艦の最後の1艦であるこの艦を、元のHMS「ヴェンジャンス」の姿に戻して第二次世界大戦の記念艦とするというものだった。この"Friends of the HMS Vengeance"の計画はある程度の資金を集めたものの、最終的には上海近郊の浙江省舟山にて同様のミュージアム艦化計画を持っていた中国のイベント会社に200万USドルで落札された。しかし、その中国の企業は期日までに入金が出来なかったため、2003年の10月にこの入札は白紙に戻され、「ミナス・ジェライス」はスクラップとなることが決定した。2004年2月にはスクラップとなるため最後の航海に船出し、インドで船舶解体されその最期を遂げた。
諸 元
ミナス・ジェライス
排水量:基準15,890t、満載19,890t
寸法:全長211.8m、全幅24.4m、吃水7.5m、飛行甲板幅36.9m
推進器:ギアード蒸気タービンで出力40,000馬力を供給し、2軸を駆動
速力:25.3kt(47km/h)
兵装:4連装40mm対空砲2基(8門)、連装40mm対空砲1基(2門)
電子機器:AN/SPS-40B対空捜索レーダー1基、AN/
SPS-4水上捜索レーダー1基、AN/SPS-8B戦闘機指揮レーダー1基、AN/SPS-8A航空管制レーダー1基、レイセオン1402航海レーダー1基、AN/SPG-34射撃指揮レーダー2基
乗員:1,300名(航空機搭乗員含む)
(この記事はワールド・ウェポン<デアゴスティーニ・ジャパン刊>をもとに構成したものです。)
[タイトル写真]U. S. Army/U.S. Marine Corp。
公開日 2023/08/29
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