▲南シナ海を航行するワスプ級強襲揚陸艦。

　「ワスプ」級は世界最大の多目的強襲揚陸艦（LHD）であり、これによってアメリカ海軍は世界中のいかなる国の海岸でも攻撃できる無敵の能力を保有している。このクラスはAV-8BハリアーIIとエアクッション型揚陸艇(LCAC)の両方を運用できるよう特別に設計された最初の揚陸艦である。8番艦まで建造されることになっている最後の3隻の平均単価は7億5,000万ドルである。
　「ワスプ」級は「タラワ」級に続く揚陸艦で、基本的な船体構造や機関類は同一である。しかし艦橋は「タラワ」級よりも2層下にあり、指揮管制通信センターは、艦が被害を受けても機能低下しにくい船体内部に位置している。また、揚陸艇の発進や収容を容易にするため、約15,000tの海水を注入して船体を傾斜させ、艦後部を水面下に沈められるようになっている。
　「ワスプ」級は2,000名からなる海兵遠征部隊(MEU)を乗艦させることが可能で、搭載している揚陸艇を使用して兵員を海岸に上陸させ、さらにはヘリコプターを使って内陸へ送り込むことができる。このヘリコプターによる機動作戦は「垂直襲撃」として知られている。「ワスプ」級の各艦は、81.4m×15.2mのウェル・ドックにLCACを最大3隻または機動揚陸艇（LCM）を最大12隻を収容することができる。またウェル・ドックに40両、上部車両収容区画に21両の合計61両の水陸両用強襲車両（AAV）LVTP-7を積載することができる。
　飛行甲板には9か所のヘリコプター着艦スポットがあり、最大42機のCH-46シー・ナイトを運用可能であるが、ほかにAH-1Wスーパー・コブラ攻撃ヘリコプターまたはCH-53Eスーパー・スタリオン、UH-1Nのような輸送ヘリコプター、または海軍のSH-60Bシーホーク多用途ヘリコプターも作戦展開させることができる。攻撃任務では6〜8機のAV-8BハリアーIIを運用できるが、支援するだけなら最大20機まで可能である。航空機用エレベーターは2基あり、1基は左舷中央付近に、もう1基は右舷のアイランド後方に設置されている。艦がパナマ運河を通過するときには、どちらのエレベーターも艦内に折りたたまれる。

▲サイパンに停泊中のワスプ級強襲揚陸艦（左）。右はタラワ級強襲揚陸艦。

　航空部隊は作戦任務に応じて構成される。「ワスプ」級は空母として機能することが可能で、制海任務にAV-8B 20機と対潜ヘリコプター6機を運用することができる。強襲揚陸任務では、代表的にはAV-8B 6機、AH-1W攻撃ヘリコプター4機、CH-46  12機、CH-53シー・スタリオンまたはCH-53E  9機、UH-1N  4機で部隊を構成する。あるいは42機のCH-46で作戦展開することもできる。
　「ワスプ」級はあらゆる種類の機器や車両を輸送し、上陸させることが可能で、M1エイブラムズ主力戦車5両、AAV7A1装甲兵員輸送車25両、M198 155mm自走砲8両、トラック68両、およびその他の支援車両12両程度で構成されるバランスのよい戦闘車両部隊を輸送できる。艦内には1分間に最大183mの速さで動くモノレールがあり、貨物を積載区画からウェル・ドックまで運搬することができる。
　各艦には、手術室6室とベッド600床を備える医療設備もあり、揚陸任務部隊の負傷や病気の治療は艦内で行える。
5番艦「バターン」（LHD-5）の建造にあたっては、材料事前準備とモジュール工法技術が採用された。サブ・アッセンブリーを組み合わせて5個の船体モジュールと上部構造物モジュールが作られ、次いでこれらのモジュールが陸上で組み立てられた。この工法により、艦は進水時にはすでに4分の3が完成していた。「バターン」は、艦の乗員と海兵隊員の両方で最初から女性を収容することを想定して設計された最初のLHAで、最大450名の女性士官、下士官兵、海兵隊員を収容する。
　1990年代中旬以降、アメリカ海軍は、老朽化したLHAを順次「ワスプ」級と交代させている。

ワスプ級
排水量：満載41,150t
寸法：全長253.2m、全幅31.8m、吃水8.1m
推進器：蒸気タービン2基で70,000馬力を供給し、2軸を駆動
速力：22kt（41km/h）
航続距離：速力18kt（33km/h）で17,594km
兵装：シー・スパロー・ミサイル8連装発射機Mk29 2基、RIM-116A RAM発射機Mk49 2基、20mm CIWSファランクスMk15 3基（LHD-5〜LHD-7は2基）、Mk38 25mm機関砲4門（LHD5〜LHD-7は3門）、12.7mm機関銃4挺
ソフトキル機器：Mk36 SRBOC 6連装チャフ発射機4または6基、AN/SLQ-25ニキシー音響魚雷デコイ、シー・ナット・ミサイル・デコイ、AN/SLQ-49チャフ・ブイ、AN/SLQ-32レーダー警戒/妨害/欺瞞装置
電子機器：AN/SPS-52またはAN/SPS-48(後期艦)対空捜索レーダー1基、AN/
SPS-49対空捜索レーダー1基、AN/SPS-67水上捜索レーダー1基、航海および射撃指揮レーダー、AN/URN25 TACAN
搭載機：AV-8BハリアーII、AH-1Wスーパー・コブラ、CH-46シー・ナイト、CH-53シー・スタリオン、UH-1N（搭載機数は作戦任務により決定）
乗員：1,208名
揚陸部隊：1,894名
貨物：一般貨物収容容積2,860m3、車両収容面積1,858m2

（この記事はワールド・ウェポン＜デアゴスティーニ・ジャパン刊＞をもとに構成したものです。）
［タイトル写真］U. S. Army／U.S. Marine Corp