【第83回】グレイバック級 <潜水艦>
「グレイバック」級潜水艦は、アメリカ海軍初の巡航ミサイル潜水艦として建造されたが、後に「グレイバック」級輸送潜水艦に転換された。ミサイル潜水艦としては、通常動力型で艦前部上方にコブ状の格納庫を装備し、艦首部にある格納庫には巡航ミサイルを収納できた。
攻撃型から輸送任務へ
アメリカ海軍の「グレイバック」は後に攻撃型潜水艦(SS)と区分されたが、もともとは巡航ミサイル潜水艦として姉妹艦「グラウラー」とともに建造された。1946年から開発していたレギュラス巡航ミサイルは、潜水艦からも発射可能なものであり、核弾頭を搭載し、有用な戦略兵器となりえるものであった。
1950年代に入り、実用化の目処が付き始めると、巡航ミサイルを搭載する潜水艦を建造することとなった。レギュラスは有翼ミサイルであり、円滑な運用のために、大きな開口部付きの専用のミサイル倉を持つ潜水艦が求められた。これにより、タング級潜水艦を改設計し、レギュラス搭載用のグレイバック級潜水艦が建造された。
「グレイバック」は船体前部に設けた2つの格納庫に、SSM-N-8(後にRGM-6と呼称)レギュラスI戦略ミサイル4発を搭載した。1964年5月25日まで戦略哨戒任務を続けた後に退役し、「グレイバック」級輸送潜水艦に転換されて、APSSとして登録された。「グラウラー」も転換されることになっていたが、財源難のためキャンセルされた。APSSの呼称は1968年8月にLPSSと変更され、次いで1975年には行政管理上の理由からSSと名前を変え、アメリカ議会から引き続き財政支援が得られることとなった。
輸送任務への改装工事は、1967年11月から1969年5月までサンフランシスコ湾にあるメーア・アイランド海軍工廠で行われた。船体全長が98.25mから101.8mに延長され、兵士67名分の食堂、宿泊施設などが設置された。
ミサイル格納庫の改造も行われ、潜水員輸送艇(SDV)6隻を運搬し、SDVとスキューバ・ダイバーを水中で送出・収容するのに使用できるようになった。潜航舵の位置も高くなり、スペリーAN/BQG-4パッシブ水中攻撃指揮装置(PUFCS)ソナーも装備された。
この潜水艦の目的は、海からの接近が必要とされる目標に対して、特殊任務を帯びたコマンドー・チームなどの潜入部隊を送り込むことであった。輸送される部隊としては、アメリカ陸軍グリーン・ベレー、アメリカ海軍SEALチーム、同水中爆破部隊(UDT)などがあった。UDTは、海岸への進入路に存在する障害を取り除いて、強襲揚陸部隊の上陸に適した地点を探るのに活用されてきた部隊である。
輸送潜水艦としての攻撃能力
輸送潜水艦としての任務は、敵に気づかれることなく特殊部隊員を海岸近くまで輸送し、隊員が素早く上陸できるように支援することだ。1980年代初期、「グレイバック」はアメリカ海軍太平洋艦隊に所属し、フィリピンのスービック湾を基地に活動していた。また、ベトナム戦争にも参加している。任務は変わったが潜水艦としての攻撃能力は完全に残しており、内燃機関推進の対艦魚雷Mk14(射程8,200/4,100m)および電気推進の対潜魚雷Mk37(射程8,000m)を搭載していた。より新しいMk48魚雷は、スービック湾に整備支援設備がなかったために搭載されていなかった。魚雷発射管制装置はMk106Mod 12であった。
1982年、同艦の右舷側チャンバーで事故が発生し、アメリカ海軍潜水兵5名が死亡した。原因調査の後、アメリカ海軍の全深海潜水システムについて設計、作業手順、訓練などの面で大幅な改善策が実施された。
「グレイバック」は1984年6月16日に退役し、1986年4月13日にスービック湾近くで標的として沈められた。
諸 元
グレイバック(SS-574)
就役:1969年5月9日(LPSSとして)
排水量:水上2,670t、水中3,650t
寸法:全長101.8m、全幅8.3m、吃水5.8m
推進器:ディーゼル3基で4,800馬力、電動機2基で5,500馬力を供給し、2軸を駆動
速力:水上20kt(37km/h)、水中16.7kt(31km/h)
魚雷発射管:533mm Mk52を艦首に6基と艦尾に2基
ソナー:AN/BQS-4 1基、AN/BQG-4(PUFCS) 1基
乗員:96名(士官10名、下士官兵86名)
兵員:67名(士官7名、下士官兵60名)
貨物:潜水員輸送艇(SDV)6隻
(この記事はワールド・ウェポン<デアゴスティーニ・ジャパン刊>をもとに構成したものです。)
[タイトル写真]U. S. Army/U.S. Marine Corp
公開日 2019/12/13
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